コラム

「認知症対策を“事前化”する仕組みを広げたい」——白岩健介先生インタビュー1回目

件名:「認知症対策を“事前化”する仕組みを広げたい」——白岩健介先生インタビュー1回目

2025年には、65歳以上の5人に1人が認知症になると推計されています。
経営者にとっても、認知症は決して遠い話ではありません。経営者本人が認知症になることで会社の資産が凍結したり、株式の承継が進まなくなったりするリスクは現実の課題です。

今回のインタビューは、弁護士として日々現場を歩き、さらに「一般社団法人日本認知症資産相談士協会」を立ち上げて活動する 白岩健介先生

第1回では、現在最も力を入れている取り組みや、現場で感じる経営環境の変化について伺いました。

認知症とお金の流れ——「止まる前に備える」仕組みづくり

白岩先生
「私が今力を入れているのは、《一般社団法人日本認知症資産相談士協会》の活動です。設立から丸2年になりますが、“認知症対策を事前に準備する”ことを広めたいという思いで立ち上げました。

日本では2025年に、65歳以上の5人に1人が認知症になると言われています。認知症になると、何が起きるか。——“お金が止まる”んです。

銀行口座が凍結されて生活費や事業資金を引き出せなくなる。有価証券を持っていても売却できない。保険金があっても請求できない。場合によっては、不動産を売却できず資金繰りが詰まることもあります。

経営者の立場からすれば、株式が凍結されてしまえば、代表者の交代すらできなくなります。これは会社の存続に直結する大問題です。だからこそ私は、“事後対応では遅い、事前準備こそ最大の防御”と伝え続けています。」

法律スキームの活用と普及の難しさ

白岩先生
「認知症対策には、《任意後見契約》や《民事信託》といった制度があります。これらを活用すれば、認知症が発症した後でも資産をスムーズに動かすことができます。

ただ、制度の名前を聞いた瞬間に『難しそう』『手間がかかりそう』と身構えてしまう方が多いのも現実です。実際には、きちんと設計すれば将来の大きな安心につながる制度ですから、私たちは“分かりやすく丁寧に伝えること”を第一にしています。

協会では、弁護士だけでなく司法書士、行政書士、FP、保険会社の方々とも連携し、“相談しやすい窓口”を作るよう努めています。」

トラブル現場から見える“いまの経営環境”

白岩先生
「弁護士という立場で私に相談が来るのは、“未来の話”よりも“トラブルの現場”が多いです。最近増えているのが、従業員とのトラブルです。

その背景には、《弁護士保険》の普及があります。これまでなら、費用倒れを恐れて弁護士に頼まなかったような小さなトラブルでも、保険に入っていれば従業員が弁護士を立てて労働審判や訴訟を起こすことができる。結果として、紛争そのものが増えているんです。

例えば、残業代の未払いをめぐるトラブル。数十万円の請求でも、従業員側が保険に加入していれば躊躇なく申し立てをしてきます。企業側も同じように保険に加入して“守り”を固める動きがありますが、双方が“少額でも争える時代”に入ったことは間違いありません。」

事前準備の重要性

白岩先生
「トラブルが起きてからでは手遅れになることが多いです。雇用契約書、就業規則、個人情報の管理——これらは“形だけ”では意味がありません。最新の法改正や裁判例に沿って整えておくことが重要です。

認知症や労務トラブルは、どちらも“ある日突然”やってきます。だからこそ、“想定外を想定する”ことが経営には欠かせない。私はその支援を、協会と法律実務の両面から取り組んでいます。」

インタビューから見えるポイント

・認知症対策は「お金の流れが止まる前に備える」ことが肝心

・従業員も経営者も弁護士保険に加入し、少額でも訴訟できる時代

・契約書・規則を“最新状態”に整えることが、最大の予防策

編集後記】KSN代表 今西英昭

白岩先生のお話を伺い、改めて「経営において一番怖いのは“止まること”」だと実感しました。

認知症で株式が凍結すれば経営はストップし、労務トラブルで資金繰りが乱れれば日常業務が滞る。経営とは常に“動き続けること”が前提であり、その流れを止めないために事前準備があるのだと学びました。

「契約」「規則」「資産管理」を整えておく必要があります。事前準備はコストではなく、“未来への投資”です。

> 次回(第2回)は「気づき・変化・課題意識」。白岩先生が現場で感じる“制度の需要”と“紛争構造の変化”についてさらに掘り下げていきます。