コラム
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民事信託の需要と“少額訴訟時代”の到来」——白岩健介先生インタビュー2回目
法律実務の世界では、この数年で大きな変化が起きています。
ひとつは「民事信託」の受け入れが広がってきたこと。もうひとつは「弁護士保険」の普及により、従業員も経営者も“少額でも裁判を起こせる時代”に入ったことです。
今回は、白岩健介先生に、現場で実感されている「気づき」「変化」「課題意識」について詳しく伺いました。
民事信託の需要が進み始めた
白岩先生:
「以前は《民事信託》と聞くと、『難しそう』『手間がかかりそう』『リスクが大きいのでは?』と敬遠される方が多かったんです。ですが最近は、丁寧な説明を前提に、事業承継や資産管理のために活用したいと考える方が増えてきました。
特に経営者の方は、“自分に何かあったときに会社を止めない仕組み”を真剣に考え始めています。信託を使えば、後継者が資産や株式をスムーズに管理できるようになる。そうした事例が少しずつ積み重なり、ようやく制度が“現場で動き出した”と感じています。」
弁護士保険の普及と“少額でも争える”環境
白岩先生:
「もうひとつ大きな変化は、《弁護士保険》です。従業員が個人で加入していると、これまでは『費用倒れになるから諦める』ような案件でも、気軽に労働審判や訴訟を起こせるようになっています。
たとえば、残業代の未払いが数十万円程度であっても、弁護士保険に入っていれば迷わず申し立てをしてきます。これが“少額訴訟時代”のリアルです。
しかもこれは従業員だけではありません。経営者側も弁護士保険に加入し、『守りを固める』動きが広がっています。つまり、双方が“訴訟を選びやすい時代”に入ったわけです。
結果として、トラブルが顕在化しやすくなり、紛争件数そのものが増えていると感じます。」
変化を受け入れるために必要なこと
白岩先生:
「制度や環境は変化し続けます。民事信託が受け入れられたのも、時代が『必要だ』と感じ始めたからです。弁護士保険の普及で争いが増えているのも、社会全体の“備え”に対する意識が変わったから。
経営者にとって重要なのは、“変化を恐れないこと”だと思います。コンプライアンスに委縮するのではなく、ルールを明確にして堂々と経営する。事業承継や認知症対策を後回しにするのではなく、必要な制度を取り入れて未来を守る。そうした姿勢が大切ではないでしょうか。」
インタビューから見えるポイント
・民事信託が「実務で動き始めた」ことは大きな変化
・弁護士保険により、従業員も経営者も“少額でも争える時代”に
・コンプライアンスは「事例共有」と「勉強会」で線引きを理解することが必須
【編集後記】KSN代表 今西英昭
白岩先生のお話を伺い、強く感じたのは「紛争のコスト構造が変わった」ということです。
これまでは、費用倒れを恐れて表面化しなかった小さなトラブルが、弁護士保険によって一気に“争い”へと進むようになっています。経営者にとっては、裁判や労働審判になるリスクが飛躍的に高まったということです。
だからこそ、今の時代は「予防」が最大の防御になります。契約書や規則を最新化し、社内研修で意識を揃える。さらに、事業承継や認知症対策も“まだ大丈夫”ではなく“今やる”ことが求められています。
変化は脅威ではなく、準備次第で味方にできます。経営者にとって、その選択は今この瞬間から始まっていると感じました。
> 第3回は「実務家としての視点・こだわり」。白岩先生が現場で貫いている“支援の姿勢”に迫ります。