コラム
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皆様
第1 残業代請求の時効が3年になりました(労基法の改正)
1 初めに
副理事をしている弁護士の井上です。
本日は、残業代の時効の延長の法改正について、ご案内します。
2 自己紹介
弁護士 井上正人
事務所名 夕陽ヶ丘法律事務所
連絡先 06-6773-9114
取扱い分野 中小企業法務、特に労働分野を取り扱っています。
第2 法改正
1 改正内容
(1)令和2年4月1日より、残業代(賃金)の消滅時効が3年となりました。
(2)改正前の労基法では賃金請求権の消滅時効は2年でした。労働法の改正で5年に変更されます。そして、令和2年4月1日より当分の間は3年となります。
2 改正による影響
(1)令和2年4月1日以降に支払われる賃金請求権(未払い残業代)の消滅時効は3年になります。(ゆくゆくは5年となります。)
(2)令和2年4月1日以降に支払われる賃金から、時効が延長されるので、直ちに影響はでません。現実的な影響がでるのは2年経過後の令和4年5月以降です。
そして、3年後の令和5年5月以降には、未払い残業代は2年分ではなく、3年分となります。単純計算で1.5倍です。
さらに、ゆくゆく消滅時効は5年となるので、支払額は2.5倍となります。
3 具体的な事例
(1)例えば、1日9時間働いてもらっていて、1時間のサービス残業がある。1か月では30時間ぐらいのサービス残業があるとして、2年間の未払い残業代が135万円になります。
(2)これが、3年後の令和5年5月以降には、未払い残業代は2年分ではなく、3年分となります。単純計算で1.5倍です。つまり、202万円になります。
(3)正直、経営をやっているのが怖くなる数字です。
4 記録の保管義務
(1)改正前の労基法では賃金請求権の消滅時効は2年でした。労働法の改正で5年に変更されます。そして、令和2年4月1日より当分の間は3年となります。
(2)賃金台帳等の書類の保管義務は3年でした。現時点では、この点について変更がありません。しかし、いずれ、賃金の時効が5年に変更されるのに合わせて、記録の保管も5年となる予定です。
(3)なお、現実的には、2年分の記録もないことが多く、訴訟の場では1年分の記録をもとに推察して計算することが多いのが実情です。だから、問題ないということではなく、法律の改正にあわせた対応が必要です。
5 求められる会社の対応
(1)一言で言えば、未払い残業をそのままにしておくと、支払額が1.5倍になる。(ゆくゆくは、2.5倍になります。)
(2)社員一丸となって、労働時間の短縮、不要な業務の洗い出しが必要になります(働き方改革)。
(3)同業種の取り組みにはアンテナを張る必要があります。また、社労士等の専門家に相談することも大事です。
(4)猶予期間は、3年後の令和5年5月までです。それまでに対策を終えなければなりません。
(5)会社を苦しめる法改正ばかりになりますが、「仕事の効率化」「無駄な仕事を無くす」というキーワードで考えれば、いろいろとアイデアが浮かぶのではないでしょうか。
(6)効率化のキーワードとしては、「IT活用(クラウドの活用)」、「RPAの活用」などが考えられます。経営者にとっては本当に厳しい時代ですが、趣味として楽しむしかありません。